【レポート】
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月25日、筑波宇宙センター(茨城県つくば市)において、「こうのとり」(HTV)3号機に搭載予定の「小型衛星放出機構」をプレス向けに公開した。打ち上げ時期は2012年度。5機の超小型衛星を搭載し、国際宇宙ステーション(ISS)から軌道上に放出する計画だ。
「小型衛星放出機構」(J-SSOD:JEM-Small Satellite Orbital Deployer)は、その名称の通り、キューブサットなどの超小型衛星を軌道上に放出するための装置。「衛星搭載ケース」と呼ばれる筒の中に複数の超小型衛星を搭載しており、外側のフタが開くとバネの力で押し出される仕組みだ。
近年、大学やベンチャーによる超小型衛星(100kg以下の小型衛星)の開発が盛んになっているが、これまでは一般的に、大型衛星への"相乗り"で打ち上げられていた。しかし、J-SSODを使った小型衛星放出ミッションでは、衛星は宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の与圧部に格納され、ISSに運ばれる。
この方法によるメリットは、大きく3つ。
ロケットへの相乗りでは、打ち上げ時、衛星は機体にガッチリと固定されるので、ロケットによる大きな振動がそのまま衛星にも加わることになる。超小型衛星といえども、この衝撃に耐えられるよう、頑丈に作る必要がある。そうしないと、壊れて軌道上で動かなくなってしまう。
対してこのミッションでは、振動条件はかなり緩やかになる。ISSには宇宙飛行士が滞在しているので、衛星が振動で壊れないよう、丁寧に梱包して打ち上げることが可能。船内で「開梱してもらえる」というのは、有人ならではと言える。試験も簡素化できるので、衛星開発者の負担も低減されるだろう。
打ち上げの自由度も増える。相乗りでの打ち上げだと、主衛星のスケジュールが優先されるので、期限までには絶対に開発しないといけない。しかしこのミッションの方法だと、衛星は標準規格のバッグに格納されるので、もしHTVでの打ち上げに間に合わなくなったとしても、ロシアや欧州の輸送機に搭載することも可能だ。
ロケットでの打ち上げでは、引き渡した後にはもう何もできないが、このミッションでは、軌道上で放出前に衛星をチェックすることも可能。貴重な宇宙飛行士の作業時間を使うことになるので多用はできないが、どうしても必要なときには検討の上、何か作業してもらうことも可能だろう。
これまで、ISSから超小型衛星を放出したことはあったが、それは宇宙飛行士が船外に出て、手で投げていたものだった。今回、日本が開発した小型衛星放出機構の特徴は、日本実験棟「きぼう」のエアロックとロボットアームを使うことで、船外活動が不要になること。船外活動は危険を伴う上、準備も大変。これなら、安全で簡単だ。
J-SSODに格納できる超小型衛星のサイズは10cm角。これは一般的にキューブサットと呼ばれるが、この10cm角を1Uとして、2つ繋げた大きさの2U、3つ繋げた3Uサイズの衛星を格納することも可能だ。J-SSODには、3U分の衛星搭載ケースが2台取り付けられており、合計6U分の超小型衛星を放出する能力がある。
放出する衛星は、衛星搭載ケースに格納された状態で打ち上げられ、ISSの船内で宇宙飛行士がJ-SSOD本体に取り付ける。その後、「きぼう」のエアロックを通して船外に出し、ロボットアームで装置を把持。ISSの後方、下45°に向けて、衛星を放出する。射出の速度は秒速1.6mで、ほぼISSと同じ軌道を周回する。
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超小型衛星を放出する作業の流れ(提供:JAXA) |
衛星は放出と同時にスイッチが入り、電源が起動するが、ISS側の安全のため、電波を出したり、アンテナやパドルを展開するのは、分離後30分以上が経過してからという制約がある。
ISSは高度350~400km程度という低い軌道を周回しているため、大気による抵抗が比較的大きい。そのため、ISSから放出した場合には、軌道上にとどまれるのは大体数カ月~1年程度と見られており、その後、地球に再突入して燃え尽きる。相乗りロケットの場合は、一般にもっと高度は高く、衛星の寿命さえ保てば長く使えるが、早く落下するというのは、反面、デブリ(宇宙ゴミ)になりにくいということでもある。
今回、搭載される超小型衛星は、JAXAの公募で選ばれた3機と、NASAが提供する2機。公募は昨年3月に開始され、〆切までに8機関が応募、有識者による選考委員会により、同年5月に、和歌山大学/東北大学の「RAIKO(雷鼓)」、福岡工業大学の「FITSAT-1」、明星電気の「WE WISH」が選ばれた。RAIKOのみが2Uサイズで、他の衛星は全て1Uだ。
ちなみに、今回は10cmサイズ用の衛星搭載ケースが使用されるが、J-SSODのプレート部分はレゴのような汎用性があり、今後、もっと大きな衛星用のケースを用意して、放出することも可能だという。エアロックにより大きさの制限はあるが、30cm角程度の衛星であれば問題ないそうだ。
今回は技術実証という位置付けであるため、今後、継続して衛星放出ミッションを行うかどうかは未定だが、JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部・JEM運用技術センターの土井忍氏によれば、研究・教育目的の無償利用のほか、ビジネス目的での有償利用も検討していくとのこと。
超小型衛星は日本の得意分野であるが、打ち上げコストの高騰や打ち上げ機会の不足が課題となっていた。当初は教育目的が多かった超小型衛星も、最近ではアクセルスペースの「WNISAT-1」のように、企業から受注したものも出てきている。商用利用への道を開くことは、超小型衛星の産業化への弾みにもなるだろう。
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